無力感(2018.01.15)

 この頃の耳たぶがちぎれそうなほどの寒さに自転車を漕いで最寄駅へ行くまでの十数分に、僕は物思いをめぐらしながら無力感に打ちひしがれている。そういうときは朝の静寂がとても好ましい。悟りに入ったような錯覚を起こせる。もうずっと前から脱力感を感じているけれど、朝の突発的かつ習慣的なえづきとともに学校に行くまでにはすっかりその日のことで頭がいっぱいになり、何を考えて悩んでいたかも忘れてしまう。あるいは休日なら、そうなる前に radiko をつけて朝を掻き消す。なるべく心を賑わせて現実逃避して、それから一日のやるべきことを淡々とこなして夜を使い果たしていく。 不思議なことに、悩んでいたことは夜になると結構思い出せる。おとといは、フランス人の約8割が陰謀論を信じているらしい、というニュースを見て、どうしたって人の考えは他人の一押しじゃ変わんないよな、という無力感にさいなまれたし、その数日前は「世の中は結局多数派が見ているものに合わせながら平均値をとっているから、公平さが担保されないな」と思ってどうしようもねえなと吐き捨てたりして、結局こういうことを何年も続けているから偏屈な人間になってしまったんだなという自覚はある。結局は、自分も考慮のうちに入れては軽蔑することを繰り返したあの小さくて脆い複雑怪奇でどうしようもないコミュニティが、自分の中にどうしてもあって、あるいは見たいものやなりたいものだけ見続けて、袋小路で叫んでるだけなんじゃないかといつでも思っている。昔から泣き虫だったので、余計に無力感についてのアンテ…

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報道、表現、他者(2017.12.29)

 今年の最後の最後に、メディアの人物が肝に銘じてはならない反例が出来てしまった。朝日新聞の記者へのインタビュー記事。端的に言えばいくらでも言いようはあろうが、それをしてしまうと同じ穴の狢であり、また反例を踏まえていないとみなされても仕方がない。インタビュー記事(日刊ゲンダイ 『朝日新聞・高橋純子氏 「安倍政権の気持ち悪さを伝えたい」 2017年12月25日付)からいくらか文脈を乱さない程度に抜粋したい。 『(安倍政権の「人づくり革命」などのフレーズを例に挙げ)欺瞞を正面から突破するのは難しい。だから「なんか嫌だ」「どっか気持ち悪い」などといった自分のモヤモヤした感情をなんとかして言葉にして読者に伝えないと、権力に対峙したことにならないんじゃないかと思うんです』『あらゆることを損得の基軸に落とし込もうとする安倍政治(注:ここまでで、安倍政権が提唱する『一億総活躍社会』について弱者を社会に包み込むのではなく動員する考えだど批判しての流れ)が、私は嫌い、というか、なんか悔しい。だからといって、言葉を強めて批判的な記事を書けば、読者に届くわけでもない』 ここまでの流れで、「弱者を包むのではなく動員する安倍政治は醜い」という文脈を持ち、またもっと前では「でも私も堅い記事を書いていたけれどそれじゃ書き手の温度が伝わらない」という話もしていて、それを踏まえても妥当な展開なのか疑問符が付く。前者では「欺瞞を正面から突破するのは難しい」と書くが、その欺瞞であればそれについて事実をねちっこくねちっこく重ねあげ、かと…

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期待論(2017.10.25)

 期待は人が抗うことのできない欲望であり、また人を傷つけうる暴力でもある。ときに追い風になり、ときに凶器にもなる。また時に期待しても無駄だと言って突き放すというか突き放せる人と、そうはいっても突き放せない人は、本当の失望なんてものもまた存在しない――本当の期待が存在しないように――と知っているかどうかの違いなのだ、とも思う。 だから、毎年タイガースの優勝を応援したり、村上春樹のノーベル文学賞受賞を夢見たり、そういう小さくて大きな「期待」を心の中に誰でも持ちうるのだ。「決して何にも期待しない」という人でさえ、当然のような社会の仕組み、物や人の動きから完全に独立していないという点で、無意識に何かに期待している。スマートフォンが起動しなくなったら「何てことだ!」と思うのは、「当然のように起動してくれるだろう」という、厳しめに言えば慢心の中で生きていたからではないか、と言わざるを得ないし、そういうところで気づかされる期待はやはり誰からも切り離せないものだ。 それでも、期待から完全に独立したくなる感情=失望を持ち合わせうるのは、「人の期待の重圧に押しつぶされたとき」と「重い期待外れを味わったとき」である。 期待に押しつぶされそうになると、人は逃げる。正しい判断だ。稀にその重圧を跳ね返す強靭な精神力を持つ人もいるが、それはそういう訓練を受けてきた人々だからであり、たとえばそういったことをしていない僕のような人物が何か期待を受けたとすれば、確実に押しつぶされていくだろう。だから人は逃げる。 すると逃げたあと、そ…

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